中小企業診断士やコンサルティング会社は、経営革新等支援機関の認定を受けることができます。本稿ではこの制度について検討します。
認定経営革新等支援機関について知る
制度概要
経営革新等支援機関(認定支援機関)は、中小企業・小規模事業者が安心して経営相談等が受けられるために、専門知識や、実務経験が一定レベル以上の者に対し、国が認定する公的な支援機関です。英語表記は「Support agencies for business innovation」です。
具体的には、商工会や商工会議所など中小企業支援者のほか、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士等が主な認定支援機関として認定されています。
制度の背景
近年、中小企業を巡る経営課題が多様化・複雑化する中、中小企業支援を行う支援事業の担い手の多様化・活性化を図るため、平成24年8月30日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う経営革新等支援機関を認定する制度が創設されました。
認定制度は、税務、金融及び企業財務に関する専門的知識や支援に係る実務経験を有する個人、法人、中小企業支援機関等を、国が経営革新等支援機関として認定することにより、経営分析や事業計画策定に係る中小企業による支援機関に対する相談プロセスの円滑化を図るものです。
登録支援機関の状況
全国には、25,060か所(平成28年5月12日時点)の認定支援機関が認定されています。
東京都だけで7,400超の認定支援機関があります。うち税理士(法人含め5,200件)、公認会計士(法人含め1,000件)、弁護士(法人含め700件)が多数を占め、中小企業診断士は115件、民間のコンサルティング会社は265件と比較的少ない状況です。
関東経済産業局・管内認定支援機関認定状況(平成30年12月21日更新)
認定経営革新等支援機関が提供する主な支援内容
認定支援機関の支援内容は、以下のとおりです(中小企業庁ウェブサイトより)。
1. 経営革新等支援及びモニタリング支援等
①経営の「見える化」支援
経営革新又は異分野連携新事業分野開拓(以下、経営革新等)を行おうとする中小企業・小規模事業者の財務状況、事業分野ごとの将来性、キャッシュフロー見通し、国内外の市場動向等の経営資源の内容、その他経営の状況に関する調査・分析を行います。②事業計画の策定支援
調査・分析の結果等に基づく中小企業・小規模事業者の経営革新等に係る事業の計画(経営改善計画、資金計画、マーケティング戦略計画等)の策定に係るきめ細かな指導及び助言を行います。③事業計画の実行支援
中小企業・小規模事業者の経営革新等に係る事業の計画を円滑に実施するためのきめ細かな指導及び助言を行います。④モニタリング支援
経営革新等支援を実施した案件の継続的なモニタリングを行います。⑤中小企業・小規模事業者への会計の定着支援
中小企業・小規模事業者が作成する計算書類等の信頼性を確保して、資金調達力の向上を促進させるため、「中小企業の会計に関する基本要領」又は「中小企業の会計に関する指針」に拠った信頼性のある計算書類等の作成及び活用を推奨します。2. その他経営改善等に係る支援全般
中小企業・小規模事業者の経営改善(売上増等)や創業、新事業展開、事業再生等の中小企業・小規模事業者の抱える課題全般に係る指導及び助言を行います。3. 中小企業支援施策と連携した支援
中小企業等支援施策の効果の向上のため、補助金、融資制度等を活用する中小企業・小規模事業者の事業計画等策定支援やフォローアップ等を行います
認定支援機関に登録する
認定基準(誰が登録できるか)
中小企業庁による詳細な説明は以下のとおりです。
(1)税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識を有していること
・経営革新等認定支援機関候補として想定される者は、多岐多様にわたり、かつ、それぞれにおいて専門的な知識のメルクマールが異なることから、以下(イ)~(ハ)の3分類で判断することとします。
(イ)士業法や金融機関の個別業法において、税務、金融及び企業の財務に関する専門的知識が求められる国家資格や業の免許・認可を有すること
(税理士法人、税理士、弁護士法人、弁護士、監査法人、公認会計士、中小企業診断士、金融機関のみ本号に該当)
(ロ)経営革新計画等(※1)の策定に際し、主たる支援者として関与し、認定を受けた計画が3件以上受けていること
(ハ)(イ)や(ロ)と同等以上の能力(※2)を有していること(2)中小企業・小規模事業者に対する支援に関し、法定業務に係る1年以上の実務経験を含む3年以上の実務経験を有していること、または同等以上の能力(※2)を有していること
(3)法人である場合にあっては、その行おうとする法定業務を長期間にわたり継続的に実施するために必要な組織体制(管理組織、人的配置等)及び事業基盤(財務状況の健全性、窓口となる拠点、適切な運営の確保等)を有していること。個人である場合にあっては、その行おうとする法定業務を長期間にわたり継続的に実施するために必要な事業基盤(財務状況の健全性、窓口となる拠点、適切な運営の確保等)を有していること。
(4)法第27条各号に規定される欠格条項のいずれにも該当しないこと
(イ)禁固刑以上の刑の執行後5年を経過しない者
(ロ)心身の故障により法定業務を適正に行うことができない者
(ハ)法第31条の規定により認定を取り消され、当該取消しの日から5年を経過しない者
(ニ)その他(暴力団員等) 等(※1)「中小企業等経営強化法」、「中小企業者と農林漁業者との連携による事業活動の促進に関する法律」、「中小企業による地域産業資源を活用した事業活動の促進に関する法律」、「産業競争力強化法」等、国の認定制度に基づく計画を対象とする。
(※2)中小機構にて指定された研修を受講し、試験に合格すること。商工会・商工会議所の場合は、「経営発達支援計画」の認定を受けていること。
○なお、認定の更新の場合、(1)(ロ)または(ハ)、及び(2)に関する対象期間は、直近の認定日から更新申請日まで(最大5年間)とし、(1)(ロ)については、主たる支援者として法定業務に関与し、認定等を受けた計画が3件以上あることとします。
登録手続
以下の書類が必要です。登録手数料は無料です。
①「認定(更新)申請書」
・氏名または名称及び住所並びに法人の場合は、その代表者の役職及び氏名、事務所の所在地(支店等での活動がある場合は、支店等の所在地も記載)
・法定業務の内容、実施体制
②添付書類
・経営革新等支援業務を行う者の認定等に関する命令(以下「命令」という。)第2条第1項第2号の規定に掲げる要件に適合することを証する書類(「専門的知識を有する証明書」、「支援者からの関与を有する証明書」、「実務経験証明書」及びこれらを証明する関係書類)
・法第27条各号に規定される欠格条項のいずれにも該当しないことを証する書類(「欠格条項に該当しない旨の誓約書」)
更新手続
5年ごとに認定の更新があります(更新手数料は無料です)。以下の項目を確認します。
- 専門的知識
- 法定業務を含む一定の実務経験
- 業務の継続実施に必要な体制
法定業務とはなにか
中小企業等経営強化法第26条第2項に規定される業務です。具体的には以下のように説明されます。
「経営革新若しくは異分野連携新事業分野開拓を行おうとする中小企業又は経営力向上を行おうとする中小企業等の経営資源の内容、財務内容その他経営の状況の分析」、「経営革新のための事業若しくは異分野連携新事業分野開拓に係る事業又は経営力向上に係る事業の計画の策定に係る指導及び助言並びに当該計画に従って行われる事業の実施に関し必要な指導及び助言」をいいます。
○具体的には、税理士法人及び税理士の場合は、税理士業務に付随して行う財務書類の作成等、または中小企業等の経営状況の分析、事業計画の策定支援・実行支援(「経営革新計画」等の策定支援等を含む。)などが「経営革新等支援業務」に該当します。
※「経営革新」とは、事業者が新事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ること(第2条第7項)。
※「異分野連携新事業分野開拓」とは、その行う事業の分野を異にする事業者が有機的に連携し、その経営資源(設備、技術、個人の有する知識及び技能その他の事業活動に活用される資源をいう。)を有効に組み合わせて、新事業活動を行うことにより、新たな事業分野の開拓を図ること(第2条第9項)。
※「経営力向上」とは、事業者が、事業活動に有用な知識又は技能を有する人材の育成、財務内容の分析の結果の活用、商品又は役務の需要の動向に関する情報の活用、経営能率の向上のための情報システムの構築その他の方法であって、現に有する経営資源又は次に掲げるいずれかの措置(以下「事業承継等」という。)により他の事業者から取得した又は提供された経営資源を高度に利用するものを導入して事業活動を行うことにより、経営能力を強化し、経営の向上を図ること(第2条第10項)
コンサルタントとしての制度活用
以下のように、認定支援機関等の関与を要件とする中小企業支援施策があります。
「中小企業経営力強化資金融資事業」
創業又は経営多角化・事業転換等による新たな事業活動への挑戦を行う中小企業であって、認定支援機関の支援を受ける事業者を対象に日本政策金融公庫が融資。
「先端設備等導入計画」(生産性向上特別措置法)
事業者が認定支援機関の確認を受けて市町村に申請し、認定を受けた場合は、固定資産税を3年間軽減。
「事業承継税制」(経営承継円滑化法)
非上場の株式等を先代経営者から後継者が相続又は贈与により取得した場合において、経営承継円滑化法に係る都道府県知事の認定を受けたときは、相続税・贈与税の納税が猶予及び免除。
ものづくり等補助金(ものづくり・商業・サービス経営力向上支援補助金)
中小企業・小規模事業者が認定支援機関と連携して、生産性向上に資する革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援。
経営改善計画策定支援事業
借入金の返済負担等の財務上の問題を抱え、金融支援を含む本格的な経営改善を必要とする中小企業に対して、認定支援機関の助力を得て行う経営改善計画の策定を支援(405事業)。また、本格的な経営改善が必要となる前の早期の段階からの資金繰り管理等の簡易な経営改善計画の策定も支援(プレ405事業)。
中小企業経営力強化資金融資事業
創業又は経営多角化・事業転換等による新たな事業活動への挑戦を行う中小企業であって、認定支援機関の支援を受ける事業者を対象に日本政策金融公庫が融資。
経営力強化保証制度
中小企業が認定支援機関の助力を得て経営改善に取り組む場合に信用保証料を軽減
参考文献
経営革新等支援機関について(関東経済産業局)
※該当地域の経済産業局の情報をご利用ください